金管楽器を続けていると、「マウスピースを替えたら、もっと上手に楽に演奏できるのでは・・・という気持になり、次々に色々なマウスピースを試していく現象に陥ります。これを、「マウスピースの森に迷い込む」と言います。私もその森を彷徨う一人です。

上手くなりたいという気持ちが続く限り、この森からは抜け出せません。

でも、迷い続ける人の足元を照らし、森の出口かもしれない方角を指し示すことはできます。その方法の1つが、この「マウスピースの森」というサイトです。

マウスピースについて深く理解し、科学的に考えながら、理想の音や音楽を追い求めていきましょう・・・
 
 各部の名称と音色     音が出るしくみ       音量・音程・音色について  
               
 マウスピースの大きさ・形状と音の違い      倍音とマウスピース     歯並びとアンブシュアとマウスピースの関係  
               
 楽器との相性      材料と音色     メッキの種類と音色  
               
 マウスピースの重量バランスと音色      ヌルヌルか?ガチガチか?     どれだけの時間をかければいいか?  
               
 マウスピースの違いによる変化は、進化?退化?     固定観念があなたを下手にする      音響(熱処理)は有り?   
               
 音に最も影響するのは何?              
               
   
各部の名称と音色
 
マウスピース各部の名称は図の通りです。まずはしっかり確認しましょう!

マウスピースの構造の違いと音色・吹奏感(吹き心地)については、他の多くのサイトで詳しく説明されています(いずれも大変分かりやすく、勉強になります)。そのため、ここではあえて簡単な表にしてみました。

 
 
 表から、次のような一般的な結論を見出すことが出来ます。
 

{高音を出しやすいマウスピースの特徴と理由}

(低音を出しやすい特徴については逆の表現になります)

○リム内径が小さい

<理由>

リム内径は、唇の振動部位に直結します。内径が小さいマウスピースは、振動部位が狭いため、唇がより細かく振動します。理由はチャイムと同じです。高い音が出る管の方が、低い音がする管より短いのは、振動部分が短く、生じる波が小さく(=高い音、高周波)なるためです。

○カップが浅く、内部がU字型に近い。

○スロートやバックボアが細い。

<理由>

カップの深さ、カップの形、スロートやバックボアの太さについては、「吹奏抵抗」に影響を与えます。金管楽器の音は、唇が開いたり閉じたりすることによってできる音波(縦波)が、管内を通過しながら共振することによって増幅され「音」となってベルから放出されますが、放出した後、再び唇まで戻り、開いた唇を閉じさせます(この連続が1秒間に442回繰り返されると、楽器からは442HzのAの音が出るのです)。吹奏抵抗が大きいという事は、唇を閉じさせる力が強くなるという事であり、開いた唇を素早く閉じさせることが出来るという事でもあります。閉じさせる力が強いという事は、閉じた唇を再び開くため(次の音波を作り出すため)にも多くの力が必要ということになりますが、その結果、細かくて数が多い振動(=高音)が作り出されることになります。

○リムカウンターが平面的

○リムバイトが鋭い(角ばっている)

<理由>

唇はリムの両側に支えられ、それより内側の部分が振動しますが、支えの部分が丸かったら、唇を支えるためにより強い力が必要になります。一瞬であれば出せる力も、回数を重ねたり、長時間になると、それを継続するのは難しくなり、結果的に「疲れて高音が出ない」という事になります。何かを持ち上げる際、持ち手の部分が丸いより角ばっていた方が「引っ掛かり」があって持ちやすいという現象と、高音が出しやすい(疲れていても出やすい)という現象は同じことです。

 

{音の移動がしやすい(なめらか)マウスピースの特徴と理由}

○リムカウンター(リムの形)やリムバイトが丸い

<理由>

リムの唇に触れる部分を、音によって柔軟的に変化させることが出来るため、唇のコントロールが容易になり、目的とする音(振動)を作り出しやすくなります。また、リムに触れる部分を濡らし、唇が滑るようにして演奏する人については、丸い分だけ唇が滑りやすくなり、目的のアンブシュアの形を作りやすくなります。

○リムの幅が狭い

<理由>

リムが薄ければ、リムが唇に触れる面積が小さくなり、押さえつけている部分が少なくなるので、唇の柔軟性が増します。音を変化させやすいという事は、音がひっくり返ったり、音程が安定しにくいという面もあります。

 

{大きな音が出るマウスピースの特徴}

○リム内径が大きい

○カップが深く、内部がV字型に近い。

○スロートやバックボアが太い。

<理由>

これらの特徴は、「吹奏抵抗」が小さくなるという点です。言い換えれば「息がたくさん必要になる」ということ。「大きな音=音波の振幅が大きい」という事ですから(詳しくは、サイト内の「音量音程音色について」をご覧ください)、唇を大きく振動させるために、沢山の息を送り込むという状態です。風の強い日には、旗などが大きく揺れますよね。息がたくさん入ることで、唇がそんな状態になるために、大きな音が出ることになります。

 

{疲れにくいマウスピースの特徴}

○リム内径が小さい

○カップが浅く、内部がU字型に近い。

○スロートやバックボアが細い。

<理由>

これらの特徴は、大きな音が出るマウスピースの特徴とは逆で、「吹奏抵抗」が大きいという点です。これは「高音を出しやすい」マウスピースと同じです。「高音を出しやすい≒疲れにく」ということは、感覚的にご理解いただけると思います。ただその分だけ大きな音が出にくくなるので、吹奏抵抗に負けずに息を入れるというための疲労は、かえって蓄積する可能性もあります。

○リムカウンター(リムの形)が平面的

○リムの幅が広い

○リムバイト(内リムの形状)が鋭い(角ばっている)

<理由>

理由は、高音を出しやすいマウスピースの場合と同じです。唇を支えるリムの両側が丸かったら、滑りやすい鉄棒につかまっているような状態と同じで、唇を支えるためにより強い力が必要になり、疲労の原因となります。

 
 音が出るしくみ
 
マウスピースが音の元になる「空気の振動」を作り出す部分であるため、マウスピースの特徴を知るには、まず「音」が出るしくみを理解する必要があるとは思いませんか?

 (1)音とは何か?

音波という言葉からも分かるように、音=波(空気の振動)です。楽器の音は、唇やリード・弦などの振動が空気を振動させる(波を起こす)ことによって生じ、それが耳の鼓膜を振動させることによって、最終的には大脳の聴覚野というところで認識されます。ですから、いい音を出し、上手な演奏をするため、マウスピースの選択をするためには、この音=波の性質について、ある程度理解することが必要です。

 次の図を見てください。

 
 
これは1秒間(グラフの端から端まで)に5回の波が起こったことを表しています。波はX軸を中心に上下にうねりますが、1回の波=1回の上下のうねりになります。1秒間に5回のうねり(波)があるから、この状態を5ヘルツ(5Hz)と言います。チューニングをする音は、通常442ヘルツであることが多いですが、それは、こんな波が442回生じている状態を基本としているという事を指します。

 

(2)音が出るとは?音が聴こえるとは?

 音が出るとは、何らかの行為によって空気が振動することです。媒質となる空気がなければ、音は出ません。でも音が聴こえるということは、また別の問題です。

生じた音(空気の振動)が耳の鼓膜まで到達し、鼓膜を振動させ、その振動が更に耳の奥(内耳)に伝わって聴細胞・聴神経を刺激し、聴神経の刺激が大脳の聴覚野まで伝わって認識され、初めて「音が聴こえる」ということになります。

 あまりに小さすぎる音(空気の振動)では、耳の鼓膜を振動させることが出来ません。 

また、あまりに振動数(周波数)が小さい(1秒間に生じる波の数)波や、振動数(周波数)が大きい波では、聴神経や聴覚野で知覚することが出来ません。風力発電などで問題になっている低周波による健康被害や、人には聞こえない周波数の音(モスキート音)を発生させて虫を追い払う方法などが、この例です。

 

(3)横波と縦波

物理的に生じる「波」は、大きく「横波」と「縦波」に分けられます。「横波」とは、弦をはじいた時のような、波の表面が上下に移動する波のことです。でも音を伝える媒質である空気や水は、横波を伝えることができません。つまり、音は「縦波」ということです。

 縦波ってなに? ⇒ 画像のような感じです。1つ目が横波、2つ目が縦並です。

横波


縦波 
 
空気を作っている分子が、行ったり来たりしている状態です。ただこれをグラフに表そうと思っても、「どんなグラフにしたらいいの?」ということになります。

そこで、ある点が行ったり来たりする場合、その点の、行ったり来たりの中心から、右に動けば「プラス」、左に動けば「マイナス」(それぞれ逆でもOK)として、動いた分だけの距離をグラフに書いていくと、私たちが通常「波」と聞いてイメージするような形、つまり「サインカーブ」になるのです。

 ま、簡単に言うと、楽器の中でも空気の分子がものすごいスピードで行ったり来たりしているのです!

1秒間に数百回とか数千回も・・・。


なおこちらの図は、『わかりやすい高校物理の部屋』より引用させていただきました(許可をいただいております)。

 

(4)開管楽器と閉管楽器

 {開管と閉管の振動}

 フルートは音を出す時にもマウスピースの部分と末端の部分に穴が開いています。これを開管といいます。開管の振動で音を出している楽器は、フルートとその仲間だけです。フルート以外の管楽器では、マウスピース側が何らかの形で閉じられています。これを閉管といいます。フルートの仲間以外の楽器はすべて閉管楽器ということになります。

 開管では全て(基音の奇数倍と偶数倍の周波数の音)の整数次倍音が出ます。それに対し閉管では、原則的に基音の奇数倍の倍音しか出ません。ところがクラリネット以外の楽器では、楽器内側が、途中から円錐形になるため、原則に反して偶数次倍音が出ます。サックスなどでオクターブキーを押すと基音の2倍の振動数である1オクターブ上の音が出るのに対し、クラリネットではレジスターキーを押すと基音の3倍の振動数である1オクターブと5度上の音が出ることからも、この事実が理解できます。

 それと音色がどう関係するのかというと何とも言えないのですが、音色の話をする上で、楽器の構造を知ることはとても重要なのです。詳しく知りたい方は、ネット上で検索してみてください。音楽系のサイトよりも、「高校物理」の方が分かりやすいかもしれません。

 

(5)円筒管と円錐管の違い

 マウスピースやリードの部分で作られた音の波は、管内で重なり合い強めあった結果、管内に留まりきれないようになり、ベルやキーの部分から漏れ出します。これが楽器特有の「音」になります。管内の構造が完全な円筒形か、ある程度のところまで円筒形である場合には、音の波は理論的に減衰することなく管内で反射され、それが重なり合うことで波を強めあいます。効率的に音を増幅させるのは円筒管です。しかし音の出口であるベルの部分に広がり(テーパー)を持たせないと、せっかく出た音が広がらないため、結果的に響かない音になってしまいます。

 逆に円錐管では、管の内径が広がるほど波が管内の壁にぶつかって反射するための距離が増していくため、そのままでは音の波が減衰してしまうことになります。それを補うために(より大きな振幅の波を作り出すために)、より多くの息が必要となりますが、管内の多くの空気が振動する分だけ、音が深く豊かなものになります。また、結果的に非整数次倍音も多く発生し、芯はあるが深くて豊かな音が生み出されることになります。

つまり、管内の広がり(テーパー)をどこからどの程度つけるか?ということが、音の広がりや音色にはかなり重要な要素になるのです。

 このあたりのことについては、YAMAHAさんのサイトて実験を紹介しています。実際に音を聴き比べられるので、とても参考になりますよ!

 
 音量・音程・音色について

さてここで、音の3要素「音量=振幅」「音程=振動数」「音色=波形」を理解しましょう。次のグラフを見てください。
 
 
波の高さのことを振幅といいます。この高さの違いが音量の違いになります。

振幅の大きさ=音量 

 波の数(グラフの端から端までが1秒間だったことを思い出してくださいね)のことを、周波数といいます。この周波数(波の数)の違いが、音の高さの違い(音程)になります。 

波の数の違い=音程 

音を機械でつくるとグラフのようにきれいな波ができますが、実際に楽器から出る音の波は、形がかなりギクシャクしています。次の写真は、フルートでAの音を吹き、その波形をオシロスコープという機械で測定したものです。

 
 
このように波の形がかなり複雑ですね。同じ楽器でも、奏者によって波形は大きく異なります。

波の形の違い=音色

 
 マウスピースの大きさ・形状と音の違い
 
私がごちゃごちゃ言わなくても、このことについては、皆さんよく分かっていると思います。きちんとした振動さえ作れればマウスピースの大きさはどうでもよく、理論的にはトランペットのマウスピースでチューバのペダルトーンを出すことも、チューバのマウスピースでトランペットのトリプルハイB♭を出すことも可能です。でも前者では音が細くなり、後者では音がぼやける(?)ことが容易に想像できます。

それはなぜ??

小さいマウスピースでは、振動する部分が小さくなるので、出している音とは異なる余計な振動を起こす部分が少なくなります(非整数次倍音が少なくなる)。もちろん唇の振れ幅(振幅)自体も小さくなりますから、音としては細く小さくなります。大きいマウスピースではこの逆です。

木管についてはマウスピースの大きさがほぼ一定であるため、このような違いは生じにくいのでしょうが、リードの削り具合や当たり外れなどに関しては、同じような状況が生じるのではないでしょうか。

ちなみに、私が持っている大小2種類のマウスピースで、倍音具合を調べた結果が次の写真になります(1枚目:大、2枚目:小)。 

 

大きいマウスピースの方が、整数次倍音(高い波)以外の低い波が多いことが一目で分かります。当たり前のことですが、大きいマウスピースの方が音が大きくて深いですが、それをキープずるための息の量と体力を必要とします。
 
倍音とマウスピース 

 (1)倍音が多い音とはどんな音?

 「倍音が多い音ってどんな音?」って聞かれたら、なんて答えます?「よく響く音」とか「きれいな音」とか・・・あまりにも曖昧。 

はっきり言って、楽器関係者が「倍音が多い音」という時、その意味を正しく理解していないか、勘違いしている場合が多い気がします。皆さん自身だって、「倍音」という言葉を使う時の皆さんの認識って、せいぜいそんなもなのでは?(違っていたらごめんなさい) 

「倍音」についての説明は世の中にあまりにも沢山あるので、ここではあえて避けます。まあ、何か楽器で音を出すと、その音(波)の周波数の整数倍の周波数の音が出て、その量が多いほど「よく響く」ということぐらいは理解しておいてください。 

例えば、チューニングB♭の音を出したとすると、その2倍の周波数の音(1オクターブ上のB♭)、3倍の周波数の音(1オクターブと5度上のFの音)、4倍の周波数の音(2オクターブ上のB♭)、5倍の周波数の音(2オクターブと3度上のDの音)・・・あとは自分で調べてください。こういうのを「整数次倍音」と言います。金管楽器の人なら、ペダルトーンから、ピストンやロータリーを押さずに出る音を下から順に言っていけば、それがペダルトーンの周波数に対する整数倍の音ということになります(あ~簡単!)。 

さてそれらが沢山出たとしたら、実際の音としてはどうなるのでしょう? 

このことについては、「声楽」の分野の方のほうがよく理解されているようです。ためしに調べてみてください。とても分かりやすく解説してくださっているサイトが沢山あります。まあ分かりやすく言うと、声楽家の方とか、黒柳徹子さん、浜崎あゆみさん、郷ひろみさん・・・など、声質がはっきりしてよく通る感じ。実際に出している声の周波数に対し、沢山発生した倍音が重なり合ってお互いの波を高めあうからこのような声になります。

これは楽器でも同じこと。楽器が上手いと言われる人は、それほど息を沢山使わなくてもよく響く音を出しますよね。これは自分で出した音に対して、同時に発生する倍音が実際の音を更に高める(波の合成)からです。この現象は、音程が非常に良いバンドの音と同じです。音程が合うことで、それぞれの音の波がお互いに高めあうので、非常に大きく響いたり、小さな音でもよく聞こえたりするのです。

でも、ちょっと問題が・・・。整数倍の倍音が多く発生する声には、「よく響く」「カリスマ性がある」などの評価がある反面、「きつい音」「ギラギラしてる」「キンキンする」・・・などの評価も同時に存在します。楽器だって同じこと。「よく響く」音は、同時に「きつくて細い音」だったり「ギラギラキンキンして不快な音」だったりもするのです。 

さて、どうしましょ? 
 

(2)2種類の倍音

倍音には、「整数次倍音」と「非整数次倍音」の2種類があります。 

私たちが「倍音」と言っているときには、その内容は99%ぐらい「整数次倍音」のことを指しています。整数次倍音とは、実際に出した音の周波数の整数倍の周波数を持つ音が勝手に出てくるというもの。この勝手な音が沢山出た方が「よく響く」のですが、反面、「音がきつくて硬い」「ギラギラしすぎて耳障り」と言われてしまうこともあるのでしたよね。  

ちょっと話は本題から外れますが、倍音を全くない音のことを「純音」と言います。完全な純音は理論上の話ですが、極めて近い音なら機械で作れます。音叉とか時報の音などがそれ。チューナーで基準音出した時の音も。「ポー」って感じの音ですかね。音量を大きくすれば波の振幅は大きくなりますが、倍音がないため、うるさいだけで遠鳴りしません。

さて本題。音色の違いは音の波の「形」の違いなのですが、この形の違いは「整数次倍音」と「非整数次倍音」の入り方によって生み出されるのです。これが楽器によって、プレーヤーによって、マウスピースによって、楽器の素材やメッキによって・・・様々な要素によって異なるため、「音色」は多様になります。しかもそこに「個人の好み」が加わるものだから、音色の話は難しいのです。 

「整数次倍音」についてはなんとなく分かってもらえたと思いますので、次は「非整数次倍音」について説明します。非整数次倍音とは、整数次倍音ではない倍音です(わー簡単!)。つまり、実際に音を出した時に生じる、その音の周波数の整数倍ではない周波数を持つ勝手に出てくる音です。具体的には・・・これも「声楽」の説明が分かりやすいのですが、ハスキーな声や優しくて親しみが持てる声とのこと。森進一さん、桑田佳祐さん、宇多田ヒカルさん、北野たけしさん・・・、まあなんとなく分かりますよね。 楽器で言えば、「柔らかい音」「渋い音」「ダークな音」という感じでしょうか?これはこれでファンが多いのではないでしょうか?私もこの非整数次倍音が多く含まれている「Euphonium」の音を理想としています。 

ところが、「非整数次倍音」が多すぎるとどうなるのでしょう? 

自然界で発生する多くの音がこの「非整数次倍音」を多く含んでいると言われています。基準音を高めず、逆に基準音を打ち消すような波の音も同時に発生するため、「音程」が感じされなくなり安定しません。最も分かりやすいのが「シンバル」の音なのだそうです。シンバルの音には非常に多くの非整数次倍音が含まれるため、音程がなく「シャーン」という究極のハスキーボイスが聞こえます。そこまでではないにせよ、一般的には「非整数次倍音」が多いと音が「かすれ」たり「しゅーしゅー」と空気が漏れるような音に近くなっていきます。


結局のところ、この2つの倍音の係わり合いが「音色」であり、全てのプレーヤーを悩ませる原因でもあるのです。

そしてそれが、私たちをマウスピースの森へと迷い込ませるのです・・・

ちなみに…
私の楽器(ヒルスブルナーのユーフォ二アム)から出たチューニングBとその上のFの倍音具合を載せてみました。1枚目がチューニングBです。下に鍵盤の絵があるので、どんな倍音が出ているか分かると思います。飛び抜けて高いのが整数次倍音で、下にある青や青緑の部分が非整数次倍音の波です。2枚目はFを鳴らした時のものですが、整数次倍音の山が5度上にズレているのが分かると思います。

 
 
 歯並びとアンブシュアとマウスピースの関係

(1)アンブシュアと歯並びは、大きく3種類に分けられる

 DNA鑑定が発達するまで、身元不明の遺体の個人判別には、歯形などが使用されていたことからも分かるように、歯並びは千差万別です。アンブシュアの形を決めるのは歯並びだけではありませんが、歯並びがかなり大きな比重を占めるのも事実。細かく見ればキリがないですが、アンブシュアに影響を与える歯並びは、次の3つに大きく分けることが出来ます。

①上の歯が下の歯より少し前に出ている

②上の歯としたの歯がほぼ並列(噛み合った状態)

③下の歯が上の歯より少し前に出ている

 

(2)歯並びの違いによるアンブシュアの違い

必ずというわけではありませんが、歯並びの違いによって、アンブシュアの位置が変わることが多いようです。以前には、「上唇2/3、下唇1/3の割合」「高音域ほど顎を引き、息の角度を下に」などと言われていたこともありますが、現在では、そう言ったことはさほど重要視されなくなりました。それよりも、自分の歯並びやアンブシュアの特性を正しく理解し、適切に対処する方が重要です。

(一般的には、上の歯が下の歯より少し前に出ている人の割合が高いため、その人たちに適切と言われているアンブシュアが「正論」として認識されている場合が多いだけです!!)

 

①上の歯が前の人 ⇒ ・マウスピース内の上唇の割合が、下唇より多い。

           ・高音ほど息の角度が下向きに、低音ほど平行に近くなっていく。

           ・高音ほど下あごを引き、低音ほど下あごを出す。

           ・どちらかといえば音が柔らかめ・暗め。

②上下の歯がほぼ並列の人 ⇒ ①と③の中間

③下の歯が前の人 ⇒ ・マウスピース内の下唇の割合が、上唇より多い。

           ・高音ほど息の角度が上向きになっていく。

           ・どちらかといえば音が硬め・明るめ。

 

(3)アンブシュアの違いによる「使いやすい」マウスピースの違い

これも一般的な話ですが、①の人(上の歯が出ている人)<②の人(上下の歯が並列な人)<③の人(したの歯が出ている人)の順で、より大きなマウスピースを好むという傾向があります。 


以上のように、歯並び1つをとっても、マウスピースの選択にはかなりの影響がでます。そのため、既成概念や固定観念に縛られることなく、「演奏しやすいマウスピース」「理想の音色に少しでも近い音が出るマウスピース」「自分の不足する部分を補ってくれるマウスピース」など、明確な目的を持ってマウスピースを選ぶことが重要です。下手な鉄砲は数を打てばいずれ目的に当たりますが、少しでも狙いを絞って売った方が、より早く目的に当たるということです。

 
 楽器との相性

(1)相性がいいとはどういうこと?

マウスピースを選ぶ際には、「楽器との相性」が大切です。正確には、「楽器を演奏する人とマウスピースと楽器の相性」なのでしょうけど。この「楽器との相性」とは、どういう現象なのでしょうか? 

「開管楽器と閉管楽器」のところにも書きましたが、マウスピースやリードの部分で作られた音の波は、管内で重なり合い強めあった結果、管内に留まりきれないようになり、ベルやキーの部分から漏れ出します。これが楽器特有の「音」になります。この「音」が「いかに効率的に出るか」、言い換えるならば、「いかに少ない力や息で、楽器内の音波がお互いに高めあう(共振・増幅)するか」という事が、楽器との相性がいいという現象なのです。 

少ない力や息による楽器内における音波の効率的な共振と増幅 = 楽器との相性がいい 


(2)音響の相似関係

 マウスピースの部分で唇やリードで作られた音波は、管内で何倍にも増幅された後に、楽器から漏れ出てホール全体に届きます。今、仮に、自分が作り出した音波が、管内で10倍に増幅されたとしましょう。その場合、マウスピースの部分で自分が作り出した音波の振幅が「1」だとすると、実際に出る音の振幅が「10」になります。そしてこれは、音量(音波の振幅)だけではなく、音程(音波の周波数)や音色(音波の形)にも、もちろん影響を及ぼします。

つまり、マウスピースのごくわずかな変化によって、実際に奏でられる音そのものが、かなり大きく変化するということを意味します。ちょうど、図形の相似比のような関係です。

大きさや深さ、形状などはもちろん、ほんのちょっとした変化(材質、メッキの種類や場所、個体差(切削するための刃物の切れ具合)、音響処理の有無、傷の有無・・・)により、音が全く別物になるのは、このためです。

そして、私たちが「マウスピースの森」に迷い込むのは、この関係のためと考えられます。

 
 材料と音色

楽器の音色は、楽器内の空気の振動によって決まりますが、空気だけではなく、楽器自体またはマウスピース自体の振動も音色に大きな影響を与えています。材質が硬ければ、管内の音波の反射はよく鳴りますが楽器の振動は抑えられ、柔らかければその逆の現象が起こります。この兼ね合いを考え、長年の試行錯誤やプレーヤーからの要求により、現在のような様々な材質・メッキ等が存在するのです。

例えば金管の材質は真鍮(亜鉛と銅の合金)ですが、銅の割合によって、少ない方からイエローブラス、ゴールドブラス、レッドブラスなどがあり、それぞれ硬さと音色が異なります。一般的に亜鉛の割合が多くなるにつれて色が薄くなり硬度が増します。逆に銅の割合が多くなるにつれて赤みを帯び、硬度は低下します。一般的にはイエローブラスの方が、レッドブラスよりも音が明るく硬いといわれますから、楽器の硬度と音の明るさ・硬さには相関性がありそうです。この傾向は木管楽器についても同じです。

 ここで、「よく響く」ということについて考えてみましょう。この表現はとても曖昧ですが、素人的には「楽器は少しでもよく響いた方が・・・」と思いがちです。ちなみによく響くための材料としては、一般的に材料のE(縦弾性係数:ヤング率とも言う)/ρ(材料の密度)の値が高いものが良いと言われています。簡単に言うと、曲がりにくく密度が小さい(=軽い)材料が適しているということになります。

 また、「よく響く」ためには、音の振動を楽器の内部で効率よく反射させる(=吸収しにくい)方が良いと言われています。これを「内部減衰率」と言います。つまり「よく響く」楽器の材料としては、E/ρの値が高く内部減衰率が小さいものがいいということになります(理屈では)。

 このことについては、佐田岳夫(Takeo Sata)氏が、「楽器と金属 Metallic Materials for Musical Instrument」(https://www.jstage.jst.go.jp/…/…/64/4/64_4_269/_pdf/-char/ja)という論文(1993.10)で詳しく述べられています。図は、佐田氏がこの論文中に使用されていたものです。

 

佐田氏も述べていますが、このグラフを見ると、楽器の材料としては、ただ単に「よく響く」ことだけを考えているのではないということが分かります。材料の固さや密度、内部減衰率をある程度犠牲にしても、「好まれ求められる音色」に対応するために、試行錯誤が繰り返されてきたと言えます。マウスピースについても同様のことが言えます。

また材料やメッキ以外に、世の中には音色に変化を持たせるための様々な小物も存在します。リーフレック・バルブキャップ・ボトムキャップ・リガチャーなど・・・。リガチャーは必要不可欠な小物でしょうが、それにしては様々な形や材質・メッキのものがありますよね。こういったものは、上の話で言えば、楽器そのものの振動を変化させる(抑える)ことで、擬似的に内部減衰率を変化させるものと判断されます。さらに最近では、「音響処理」という名の熱処理による、金属の性質変化を利用したサービスも注目を浴びています。こうしたグッズや作業は、楽器そのものを何本も買ったり、色んなメッキをかけてみたりすることが、普通の人にとっては経済的に難しいため、安価に音色を変化させるものとしては、充分に可能性がありそうです。

ただ1つ言えることは、音色に「変化」は生じても、それがよい「変化」になるとは限らないということ。取り外し可能で元の状態に戻せるものなら気軽に試せますが、メッキまで変化させてしまうと、その先の保障はない・・・と言わざるをえません。このことについては、「マウスピースの違いによる変化は、進化?退化?」で詳しく触れています。

 
メッキの種類と音色

メッキによって音色に変化が生じる理由は、「材質と音色」のところで書いた通りです。ここでは、一般的に言われているメッキの違いによる音色の違いを、まとめています。

マウスピースの材質によっては、メッキをかける必要がなく、素材そのままの形で販売されています(ステンレス、樹脂、木材等)。私たちが通常目にするマウスピースや楽器は、そのほとんどに何らかのメッキ加工が施されていますが、それは、そのほとんどが真鍮製であり、真鍮は参加しやすいことと、金属アレルギー(亜鉛アレルギー、銅アレルギー)を起こしやすいというのが理由です。

銀メッキ(SP:シルバープレート):硬さHv 55130

最も多くのマウスピースに施される、基本的なメッキです。酸化すると黒変しますが、基本的に安定的な物質であることと、金やプラチナに比べ安価であるため、マウスピースや楽器のメッキとして多用されます。メッキ無し(真鍮無垢、ラッカー仕上げ)の場合と比べると、音が柔らかいイメージ。金メッキと比べると、音色はやや暗めと表現されます。

メッキ(GP:ゴールドプレート):硬さ Hv 5080(純金メッキ) Hv 190250(硬化金メッキ)

金は硬度的に銀よりも柔らかく、メッキすれば銀メッキより柔らかく、くすんだ音になると考えられますが、実際に「金メッキ」として使用されるのは、金にコバルトを13%加えた「硬化金」とよばれるもので、硬さは銀より上です。金は高額であることもあり、通常は銀メッキの上に薄くかけられますが、2つのメッキのトータルの厚さと、硬化金の硬さのため、銀だけのメッキに比べ吹奏抵抗が増します。硬いものでコーティングするということは、唇の振動によって引き起こされるマウスピース自身の振動(マウスピース自体から逃げ出す音波のエネルギー)を抑制することに繋がり、その結果、作り出された音波をよりストレートに楽器内に送り込むことが出来、音色が「絞まった」「華やか」「煌びやか」な感じになります。しかしその反面、マウスピースを硬いもので押さえつけたような感じになるため、11つの音のツボが狭くなったような感覚に陥ったり、体力や持久力が必要と感じたりする結果になります。

フェリックゴールド(金と鉄の合金)Hv 150200

硬化金に加えるコバルト(Co)は、金属アレルギーを引き起こす原因になることがあります。そのため、コバルトの代わりに、鉄(Fe)を加えたものが、フェリックゴールドです。見た目的にも硬度的にも、一般的なコバルト入りの金メッキ(硬化金メッキ)とほとんど変わりません。

シャンパンゴールド(金とニッケルの合金)硬さ Hv 250程度

金(Au)にニッケル(Ni)を加えたメッキです。色は薄い金色で、シャンパンの色に似ているために「シャンパンゴールド」と呼ばれます。硬度を見ても分かるように、一般的なコバルト入りの金メッキより硬いため、音色的にも、より明確で硬く、きらびやかな感じになります。コバルト同様、ニッケルも金属アレルギーの原因になることがあるため、アレルギーの方には不向きです。

ピンクゴールド(金と銅の合金)硬さ Hv 150以上

(Au)に銅(Cu)その他(銀など)を25%程度加えたメッキです。金属銅自体は赤みを帯びた金属ですので、金と一緒にすることで、メッキ自体はピンク色になります。また銅は素材としては柔らかく、コバルト入りの金メッキよりは硬度が小さくなるため、音は銀めっきよりは明確で明るくなるものの、金メッキほどではないという感じになります。金メッキと銀メッキの中間というか、少し柔らかい感じの金メッキの音という表現が適切かもしれません。なにより見た目がピンクできれいであるため、見た目から想像される音色の影響や、装飾品としての価値という点からも、人気があるメッキと言えます。

グリーンゴールド(金と銀の合金)硬さ Hv 150200

(Au)に銀(Ag)25%程度加えたメッキになります。金属銀自体はご存じの通りの色ですが、金に加えることで、やや緑色を帯びた、明るい色調に変化します。硬度的にはピンクゴールドとさほど変わらないため、音色としては似たようなもの(金メッキと銀メッキの間)になります。

ロジウムメッキ(PHP:ロジウムプレート)硬さ Hv 8001000

非常に明るい銀白色のメッキです。ロジウム(Rh)は硬度が非常に高く、耐食性、耐熱性にも優れる安定した物質であるため、装飾品や電子機器に用いられることが多いです。硬度が非常に高いため、通常の金メッキ(コバルト入り)などよりも格段に明るく(硬く)、まとまった音が得られます。値段としては高額になります。

ルテニウムメッキ(RUP:ルテニウムプレート)硬さ Hv  700以上

ルテニウム(Ru)はロジウム(Rh)と原子番号が1つだけ違う原子で、性質が似ています。ロジウム同様

、非常に明るい銀白色のメッキです。ロジウムメッキに比べ、うっすらと青みを帯びていると言われます。硬度も非常に高く、単体では脆いという性質もありますが、メッキとして用いられる分には問題はありません。基本的な特徴はロジウムとほぼ同じです。

プラチナメッキ(PTP:プラチナプレート)硬さ Hv 40(純プラチナ) Hv 100200(プラチナ合金)

プラチナ(Pt)は白金と呼ばれ、金(Au)に次いで物質的に安定(イオン化傾向が小さい)な物質です。純プラチナは密度が大きく、重い金属ですが、硬度は小さいのが特徴です。そのため、傷つきや変形を防止するため、何らかの金属(パラジウム、ルテニウムなど)との合金として用いることが多いです。色はややくすんだ銀色。密度が高い分、マウスピースにメッキを施すと抵抗感が増し、音が絞まった感じになります。また金メッキ(コバルト入り)と同様、マウスピース自体の振動を抑え、唇で作り出された音波を効率よく楽器内に伝えるため、よく響く明確な音になる特徴があります。ただ値段的には非常に高額になります。

 
マウスピースの重量バランスと音色

マウスピースの形は様々で、どんなものがいいという答えはありません。ただ一般的な傾向として、マウスピースの重量バランスの違いにより、次のような変化が生じます。

(1)リム周辺が厚く重い

特に唇周辺の振動が抑えられるため、音がまとまり、艶のある音になります。半面、抵抗感も増すため、金属が厚く重いほど、演奏するには体力が必要になります。また、音そのものは安定し吹きやすいような感覚にとらわれますが、唇の柔軟性が少し損なわれるため、リップスラーやインターバルなど、音の移動が難しいような印象を受けます。

(2)カップ底面からスロート周辺が厚く重い

リム周辺は薄く、カップ底面とスロート周辺が厚くなっているマウスピースでは、唇の柔軟性を損なうことなく、音をまとめ安定させることができます。デニスウィックのヘリテイジシリーズ等がその代表と言えます。その効果は確かなものですが、最も息の圧力が高まるスロート周辺の金属の厚さが増すため、一般的なマウスピースより、やや音が硬く、ストレートに響く印象があります。

(3)全体的に厚く重い

いわゆる「ヘビータイプ」と呼ばれるものです。見た目通り、マウスピースそのものの振動が抑えられるため、音波が効率よく楽器内へと伝えられますが、その分だけ唇の遊びが無くなり、抵抗感も増すため、ちょっと演奏するだけだと「響く」ように感じますが、長時間演奏すると、唇や体全体に疲れが生じ、結果的に息が入らず楽器がならないという現象が起こる可能性がります。

(4)全体的に薄く軽い

唇の自由度が高く、吹奏感が自然であるため、「吹きやすい」と感じることが多いです、ただ薄くて軽い分だけ、マウスピース自体が振動することによって音波が空気中に逃げ出してしまうため、遠鳴りせず、大きな音を出すために、より多くの息を必要とするなどの特徴があります。

 
 ヌルヌルか?ガチガチか?

アンブシュアには「ぬるぬる」と「がちがち」があります。あなたはどちらですか?

これについては、コメントする方が少ないですよね。なぜでしょう?

「ぬるぬる」とは、唇とマウスピースの接触面が常に水分を帯び、音域によってマウスピースを上下にずらしながら演奏する人のことです。きちんとした統計は内容ですが、世の中の多くのプレーヤーは、この「ぬるぬる」状態で演奏されているようです。このタイプの人は、音域によってマウスピース内での唇の位置が上下するので、「音の移動がスムーズ」「音域にあった唇を作りやすく疲れにくい」などの長所がありますが、移動がスムーズにできるまでそれなりの練習が必要であったり、人によっては高音域で踏ん張りが効かなかったりという短所もあります。また「ぬるぬる」の人は、唇とマウスピースの接種部分がよりぬるぬるに(滑らかに)なるよう、金メッキを好む傾向があるようです。さらに、演奏前にマウスピースのリム部分を舐めたり、リップクリームを多用したりという傾向も見られます。

逆に、「がちがち」の人は、マウスピースに接種している部分が基本的に移動せず、高音から低音まで「同じアンブシュア」で演奏します。「同じ」というと語弊があり、顎の出し入れで息の角度を変えたり、音域によって唇の内側と外側を使い分けたりすることで、音を移動させます。唇の位置が移動しない分だけ、音の移動や跳躍が容易にできますが、ある特定な音域の音が出にくかったり、マウスピースのリム形状に大きな影響を受けたりすることがあります。

 
マウスピースを選ぶにはどれだけの時間をかければいいか

マウスピースを選ぶ際、皆さんはどんな唇の状態で、どれ位の時間をかけて選んでしますが?店先でマウスピースを試奏し、ひとめぼれして購入したくせに、自宅でじっくり吹いたらがっかり・・・なんてことも、何度となく経験されているのではないでしょうか?私もその一人です。これは、よりよい音を目指す過程においては、ある程度は仕方がないことなのかもしれません。でも良いマウスピースとは、ある程度以上の時間使用した時に、初めて「しっくり」きたり、疲れなかったり、だんだんいい音が出てきたりするものです。

ある程度以上唇を振動させると、唇がそのマウスピースになじんできます。これは、力を入れたり緩めたり、ものすごい速さで振動させたりすることによって、唇周辺の毛細血管が血液で満たされ、唇が軽い炎症状態になります。これを意識的にやるのが「ウォームアップ」です。最低でもウォームアップぐらいは終わった状態の唇の状態でマウスピースを選ばないと、最小は「吹きやすい」と思っても、じっくり吹いたら不都合が見つかる、自分にとってダメなマウスピースを選ぶことになります。

そして出来れば、検討しているマウスピースで30分とか1時間演奏してみて、その結果、「吹けば吹くほど唇になじみ、全音域で音が出続けるもの」を選ぶのが、理想的な選び方です。

しかしこれを店頭でやると、よほど良心的な店でない限りは、お店の迷惑になります。スロートに傷をつけることになるかもしれないし、結果的に買わなかったりしたらそれこそ迷惑・・・。

 ではどうすればいいのでしょう?

それについては、いずれサイト内の別コーナーで触れたいと思っています。

 
 マウスピースの違い等による変化は、進化?退化?

マウスピースにでも楽器にでも、「何か」の処理を施せば、必ず「音色」や「吹奏感」が変わります。

つまり「変化」が生じます。 

しかしその「変化」は、自分の理想の音や目指す音楽と比較し、必ずしも良い方向への変化とは限りません。

自分の理想や思惑に少しでも近づく変化の事を、人は「進化」と呼び、遠のくことを「退化」と呼びますが、その確率は、何もしなければ普通は50%:50%です。 

新しいマウスピースを試したり、持っているマウスピースにメッキをかけたり、音響処理と呼ばれる熱処理を施したり、リーフレックやブースターのようなものを取り付けて局部的な振動を抑えたりすれば、音や吹奏感は必ず「変化」します。でもそれが、自分にとってプラスになるかマイナスになるかは、やってみなければ分からないのです。ですから、「これを使えば(この処理をすると)、必ず音が良くなります。」というような宣伝広告には、信憑性はありません。

(音響処理等を行っているメーカーさんや個人の方は、「必ず良くなる」という言い方をしているところはありません。効果が期待できます・・・とは表現していますけど。実際には、そのような処理を行って自分に都合の良い変化が得られた依頼者が、「必ず良くなる」というようなことを言っているにすぎません。)

 ただし、「進化」する確立を上げることはできます。つまり自らの努力で、進化:退化≠50%50%となるのです。その方法は、マウスピースを購入したり、何らかの処理を施す前に、それによって得られる変化の一般的な方向性をしっかりと理解しておくことです。例えば、今持っているマウスピースで、ほんの少しだけ音に輝きを持たせたい(きつくなりすぎない程度に)と考えるのであれば、マウスピースの一部に硬め金属(プラチナや金(コバルト入り)など)によるメッキをかけるか、マウスピース全体に、硬度がそれほどでもない金属の(ピンクゴールド、グリーンゴールドなど)とか、カップ内を少しU字型に削りなおすとか、薄めのブースターや硬すぎない金属のリーフレックを使うとか・・・方法はいろいろあります。もちろん、今使用しているマウスピースのサイズを細部まで正しく把握し、それと比較して、新しいマウスピースを購入し試してみるのも手ですが、その場合、数字的には「進化」する可能性の方が高いとしても、所有しているマウスピースのリメイクよりは、「変化」が「進化」になる可能性は低いように思います。

 生物は、その誕生から現在に至るまで、数限りない「変化」を繰り返し、結果的に有利な形質が選択されることで現在の形となりました。大切なのは、自身の「変化」を恐れず、常に変化しようと試み続けることです。そうすれば、あなたの演奏や音色は、必ず「進化」するはずです。

 
 固定観念があなたを下手にする

これはマウスピースや楽器に関わらず、何についても言えることですが、誰かがいいと言っているマウスピースや、値段が高いマウスピースの方がいいというような固定観念があなたの中にあるとしたら、多分あなたはこれ以上、上手くなりません。

人間の顔かたち、歯並び、体系は皆違います。また、目指す音も扱う楽器も違います。それなのに、「○○というメーカーのマウスピースはいい」という話をまともに信じて、そのマウスピースを購入したり、値段が高いマウスピースほどいい音がするなどと考えること自体、「頭の中が下手くそ」なのではないかと思います。

例えば、YAMAHAさんのマウスピースですが、シグネチャーモデルなどを除けば非常に安価で、作りも申し分ない(個体差が少ない)と思います。サイズも豊富ですし、拒む要素は何もないと思います。でも、使用している人が少ないのはなぜでしょう?

これは楽器についても言えます。日本人はYAMAHAさんをはじめとする、日本の楽器に対する評価が低すぎです。工業製品については「やっぱり日本製じゃないと・・・」などと言うくせに、楽器やマウスピースについては、どうしてそうはならないのでしょう?間違った固定観念に侵されていません?

マウスピースに関しては、「いかに自分に合うか?」「いかに楽器のポテンシャルを引きだせるか(マウスピースの部分で作り出された空気の振動が、管内でどれだけ共振しあうか)」ということが大切なので会って、値段やメーカーには左右されないはずです。

 「もっと良い音を!」という気持ちが、私たちをマウスピースの森に引きずり込み、出口を隠してしまいます。出口探しの旅は果てしなく長く、多分一生続きます。その中で、「これは自分にとっていいマウスピース!」と判断するのは、あなた自身でしかありません。よく練習し、よく学び、自分独自の価値観で、マウスピースを選べるようになりたいものですね。

 
音響(熱)処理は有り?

最近流行りの(?)音響処理について考えていきたいと思います。

国内だけでもいくつかの個人・企業様が、「音響処理」という名の処理を施されていますが、その内容はほぼ極秘。そのため、音響処理の概要を説明し、その上で、その効果について考えていきましょう!

 その前に「音響処理」は、ほぼ間違いなく金属の熱変性を利用した処理であることをご理解ください!

 種類にもよりますが、金属は熱を加えたり、冷却したり、叩いたり、空気中に放置したりすることによって、その性質が大きく変化することがあります。熱処理だけでも「焼き入れ→固くなる」「焼き戻し→粘り強くなる」「焼きなまし→柔らかくする」「焼きならし→組織を均一化する」等の方法があり、さらに温度や冷却時間・方法によって細分化されます。

金属には、本来の金属元素以外にも様々な元素が微量に存在し、その種類や量によって、金属硬度に大きな影響を与えます。金属の熱処理において、もっとも分かりやすいのは「鉄」なので、それぞれの熱処理については、ネット上で調べてみてください(話が複雑になるため、ここではあえて割愛します)。

 モノタロウさんのサイト(機械部品の熱処理・表面処理基礎講座 【通販モノタロウ】 (monotaro.com))、かなりわかりやすく勉強になりますよ!

 金管楽器のほとんどのマウスピースは真鍮(黄銅)でできていますが、その熱変性は鉄とは異なります。真鍮は「銅」と「亜鉛」の合金で、炭素をほぼ含まないために、炭素原子が影響する鉄のような焼き入れや焼き戻しは、ほとんど関係はありません。詳しく調べてみるとわかりますが、「音響処理」と呼ばれる手法は、「焼きなまし(焼鈍)」に相当します。

そのためここでは、真鍮の「応力除去焼きなまし」の効果を考えてみたいと思います。

 

(1)真鍮の加工硬化

どんな金属にも言えることですが、何らかの力を加えて加工すると、その金属を構成している原子の並びにひずみが生じ、元に戻りにくくなります。その結果、その部分が固くなることを「加工硬化」と呼び、加えた力を「応力」、金属内に残ってしまった応力を「残留応力」と呼びます。マウスピースを加工する際にも、切ったり削ったり叩いたりという「加工」を施すわけですから、完成したマウスピースにも、当然のことながら「残留応力」が生じていることになります。そもそも、材料になる真鍮の棒(丸棒と言います)を作るとき、溶けた真鍮を丸い穴に押し通して作りますので、この時点ですでに「残留応力」が生じてしまいます。

 まあ簡単に言うと、マウスピースの素材全体に、金属原子のムラがある状態です。

 このムラを、そもそもの真鍮本来の状態に近づけるのが「応力除去」作業であり、その方法が「応力除去焼きなまし」と呼ばれます。

 次では、この真鍮の「焼きなまし」方法、つまり「音響処理」方法について、紹介していきます。

 

(2)真鍮の「応力除去焼きなまし」=マウスピースや金管楽器の「音響処理」

 真鍮の残留応力の変化については、浅枝敏夫氏、西本廉氏によって1958.2.7に発表されたこちらの論文に記されています。読むのが面倒な人は、論文中の「図4」だけご覧ください。これを見ると、残留応力は120℃を超えるあたりから減少し始め、300℃以上に熱すると、ほぼ0(ゼロ)になることがわかります。また加熱時間は30分と書いてありますので、


音響処理と呼ばれる熱処理は、

300℃程度以上の温度で30分以上加熱する作業

 

と考えることができます。自宅用の高性能のオーブンや、七宝焼きの電気窯などで、自分でもできるはず・・・

 

(3)その他の知識

①真鍮は銅と亜鉛の合金ですが、亜鉛の方が融点が低いため、加熱しすぎると亜鉛が真鍮から気化してしまい、表面が赤く変色(銅の色)してしまいます。ネット上では真鍮の焼きなまし温度について、「表面が赤くなる程度に熱して」等の表現も見られますが、「焼きなまし」の目的が「音響処理」であり、マウスピースや楽器の材料でもあることを考慮すると、300℃前後が望ましいと考えられます。


 ②アクセサリーの材料として真鍮を用い、その加工をしやすくするために「焼きなまし」をしている人は、加熱後に急速冷却(水に入れる)しています。これは焼きなましの目的が、材料を「柔らかく加工しやすい物にすること」であるためです。真鍮をゆっくり(空気中に放置)冷却すると、「時硬効果」という現象が起こり、せっかく柔らかくなった材料が少しだけ硬くなってしまうのです。でも鉄に焼き入れをするほど硬くなるわけではなく、真鍮が加熱によって「本来の真鍮の硬さ」に戻るだけで、金属原子を均一化させるという本来の目的(応力除去=音響効果)は果たしているため、音響処理としては、加熱後に空気中でゆっくり冷やすだけで問題はないはずです。


 (2)で紹介したグラフからもう1つ分かることは、加熱によって応力除去を行うと、真鍮そのもの硬度が低下する(柔らかくなる)という事です。マウスピースや金管楽器の材料という観点から考えると、「材料が柔らかくなる=響きを伝えにくくなる」とも言えますから、アクセサリー製作時のように、加熱後に急速冷却しない方が硬度が落ちず、響きが(本来の真鍮レベルで)保たれるという事にもなります。

そのうえ、金属原子が均等になることで、真鍮自体が「均等に響く」ようになるわけですから、この「真鍮の熱変性=音響処理」と呼んでも、問題はないと考えます。

 

④金属の熱処理には、「低音処理」もあります(サブゼロ処理、クライオ処理等)。これは鉄や鋼には有効ですが、真鍮への影響はほぼないと考えられます(金属中に炭素原子をほとんど含まないため)

 

(4)音響処理のまとめ

 

①「音響処理」なんて効果があるのか?とおっしゃる方もいるようですが、漠然と否定したり疑ったりするのは、格好の悪いことです。まずは、なぜ「音響処理」というものが注目されているのか、このサイトを読んで理解してみましょう。そして、300℃は無理でも、自宅のオーブンやオーブントースターで220℃ぐらいの状態は作れますから、自分で試してみてください。何なら、ガスレンジに網でも乗せてその上で焼いてみても・・・。もちろん、その結果や実験後のマウスピースの状態、火傷等の怪我には一切責任は持てませんけど。

②この内容をまとめるに当たり、自分でも音響処理という名の熱処理を、マウスピースと仏壇用の鐘に施してみました。マウスピースの方は、処理前に比べ、音域による音ムラ(鳴る音と鳴らない音の差)が少なくなったような気がしました。音響処理をすると「音に響きが増す」等の記述を目にすることがありますが、その点については実感できませんでした。

1つ言えるのは、間違いなく「変化」はあります!

ただその変化が、「マウスピース等の違いによる変化は、進化?退化?」の所で前述しましたように、その人にとって好ましい変化であるのか、そうでないのかの確率は、50%50%です!

 
音に最も影響するのは何?
 
マウスピースの「サイズや形状」が異なれば、もちろん音色が変わります。それ以外に、これまで述べてきたマウスピースの要素である「材質」「メッキの種類」「音響処理」と、ある程度以上の奏者ならだれでも感じたことがあるマウスピースそのものの「個体差(全く同じものでも響きがかなり異なる)」では、音への影響はどの程度違うのでしょうか?

 これは全くの主観ですが、仮に全く同じサイズ・形状のマウスピースが存在するとしたら、音への影響の順番は、 

材質の違い > メッキの種類 > 音響処理 > 個体差

 であると感じます。 

でもそれがいいとか悪いとかではなく、それぞれ異なった目的が存在すると考える方が適切かもしれません。

 
(1) 材質の違い

もっとも一般的な真鍮(黄銅)以外にも、銅、ステンレス、チタン、樹脂などで作られたマウスピースが存在します。それぞれの素材により音色は全く異なりますが、世の中のほとんどのマウスピースが真鍮である理由は、比較的安価であることと、なんといても抜群の加工性にあると思います。実際に加工してみるとわかりますが、真鍮はまあまあの硬度がありながら、削るときに粘って引っかかったりすることがなく、木材や鰹節を削っている感覚で切削することができます。

真鍮より硬いステンレスやチタンのマウスピースは、まとまりと艶のある音になりますが、真鍮に比べると、刃物(バイト)や削り方に工夫が必要になり、加工はかなり大変になります。

銅は比較的柔らかく加工しやすい金属ですが、真鍮同様に表面が酸化されやすいことに加え、メッキがはがれて地肌(銅)が出てくると、緑青(ろくしょう)と呼ばれる緑色の錆(さび)がついてしまいます。現在では、緑青には毒性がないことが分かっていますが、見た目的にもちょっと・・・ですよね。

樹脂のマウスピースについては、最近ではかなり品質が向上しており、真鍮のものとさほど変わらない感じになっています。その分、値段もまあまあのようですが。

世の中になぜか存在しないアルミニウムのマウスピースを作ったことがあるのですが、その音は・・・想像通り、ぺらっぺらでした。硬度的にはそれなりなのですけどね。

皆様も、機会があればいろいろな素材のマウスピースを試されるとよいと思います。意外な発見があると思いますよ。

 
(2) メッキの種類

加工しやすい真鍮でマウスピースを作るのは理にかなっているのですが、真鍮には銅と同じく表面に酸化被膜ができやすい性質がります。削って磨いたばかりの真鍮は、鏡のようにピッカピカなのですが、そのまま空気中に放置すると、1日で表面がくもり、数日後には全く光らないようになります(もっとも身近な真鍮である5円玉を想像してみてください)。そのため、どうしてもメッキが必要になります。メッキさえ施せば、内部の真鍮が参加することはないのですが、そのメッキの種類で音色がかなり変わることは、先に述べたとおりです。

とはいえ、マウスピースの素材そのものの違いとメッキの違いを比べると、素材の違いの方が音色には影響すると感じます。最も、全く同じサイズの別素材を試したことがないので、気持ちの問題かもしれませんけど。

メッキをかけなければならない分だけ、余計にお金がかかるというデメリットもありますが、いろいろなメッキの違いを試せたり、メッキをかける部分を限定したりできる分、楽しみや可能性も大きいと入れるかもしれません。

 
(3) 音響処理

マウスピースの素材を熱処理することにより、残留応力(加工時に生じる金属粒子の不均衡分布)を除去(粒子が均等に分布する本来の状態に戻す)し、素材が均等に「響く」ようにするのが音響処理です(詳細については、「音響(熱)処理は有り?」を参照ください)。素材の違いやメッキの違いと比べると、音への影響は少ないように思いますが、そもそも、完成品のマウスピースや楽器に音響処理を施して音色を変化させようという発想自体が間違っていると考えます。削りあがったばかりのマウスピースには残留応力が残っていますから、そのままメッキをかけるよりは、素材の金属粒子を整え、均等に響くようにしてからメッキをかけた方がいいわけです。そういう意味で、「音響処理」を施したマウスピースというものには「付加価値」があると言えます。

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